毎年この時期は、各省庁や業界団体からの税制改正に関する要望が出揃う時期です。年末に向け、次年度の税制改正の議論が活発化します。
今回は、日本医師会が取りまとめ、8月24日に公表した「令和9年度 医療に関する税制要望」の内容に注目します。
2027年度税制改正に対し、同団体が要望した項目は、以下のとおりです。
1.社会保険診療等に係る消費税制度の見直し(消費税)
- 社会保険診療等に係る消費税について、診療所においては非課税のまま診療報酬上の補てんを継続しつつ、病院においては軽減税率による課税取引に改めること
- 上記の措置が実現するまでの間、医療機関の建物等を含む高額投資に対して特段の対応を講ずること
昨年度の要望では、高額な投資の際のキャッシュフロー悪化への対応について「何らかの手当てを別途検討することも必要」としていましたが、今回は具体的な要望事項として明記されています。
2.医業承継時の相続・贈与に関する税制措置(相続税・贈与税・所得税)
- 医療法人の出資に係る相続税及び贈与税の納税猶予制度の創設
持分の定めのある医療法人について、中小企業の事業承継税制と同様の納税猶予制度を創設することを要望しています。 - 基金拠出型医療法人における負担軽減措置の創設等
持分のある医療法人から基金拠出型医療法人へ移行する際、出資者が持分を基金として拠出した場合に生じる配当所得課税を繰り延べることや、基金に係る相続税・贈与税の納税猶予、基金の評価方法の見直しを求めています。 - 認定医療法人制度に係る税制措置の拡充
相続税の納税猶予額の計算方法の見直し、相続発生後の認定申請期限等の緩和、認定取消後の再認定を可能とする措置などを求めています。また、みなし贈与課税を受けないための要件について、解釈の弾力化や廃止・緩和も要望しています。 - 出資額限度法人の持分の相続税・贈与税課税の改善
出資額限度法人に相続が生じた場合、持分の相続税評価額を払い込み出資額のみとすることなどを求めています。
3.医療機関に対する事業税特例措置の存続(事業税)
- 社会保険診療報酬に係る事業税非課税措置の存続
- 医療法人の社会保険診療報酬以外の部分に係る事業税軽減措置について、地域医療の確保を図る趣旨に沿って存続
4.働き方改革・医師偏在対策を支援するための税制措置(所得税・法人税・固定資産税)
- 勤務時間短縮用設備等の特別償却制度について、医師等勤務時間短縮計画の事後承認化、税額控除の導入、特別償却率の引き上げ、適用範囲の拡大を行うとともに、適用期限を延長すること
- 生産性向上や賃上げに資する中小企業の設備投資に関する固定資産税の特例措置について、医療法人等の非営利法人を適用対象に加えるとともに、適用期限を延長すること
- 医師が不足する地域(重点医師偏在対策支援区域等を含む)の医療機関及び医療従事者に関する税制措置の創設
- 賃上げ促進税制における税額控除上限を引き上げるとともに、適用期限を延長すること
2026年度税制改正では、重点医師偏在対策支援区域で承継・開業する診療所について、登録免許税・不動産取得税の軽減措置が創設されました。
これを踏まえ、今回は上記3.の要望において、医師が不足する地域で診療に従事する医師等への所得税軽減措置や、同地域で承継・開業する診療所への一定期間の固定資産税軽減措置を求めています。また、自治体から医師等に貸与された研修資金の返還が免除される場合の課税の取扱いについても改善を要望しています。
5.医療DXに関する設備投資を支援するための税制措置(所得税・法人税・固定資産税)
医療機関における医療DXへの対応等の業務効率化に資する設備投資等に関する税制措置として、次の措置の創設を求めています。
- 即時償却又は税額控除(10%)を選択適用できる措置
- 一定期間の固定資産税の軽減措置
6.医療提供体制の強靭化を支援するための税制措置(所得税・法人税・相続税・贈与税・消費税・登録免許税・固定資産税・不動産取得税)
- 医療機関における防災・感染症対策に資する建物、設備等に係る税制上の特例措置の創設
- 高額の医療用機器の特別償却制度について、適用対象となる取得価額を160万円に引き下げ、即時償却又は税額控除(10%)を選択適用できる措置を講ずるとともに、適用期限を延長すること
- 地域医療構想に適合する病院用建物等の特別償却制度について、税額控除の導入、特別償却率の引き上げ、適用範囲の拡大を行うとともに、適用期限を延長すること
- 中小企業投資促進税制の適用期限を延長すること
- 病院・診療所用建物の耐用年数の短縮
- 社会保険診療報酬の所得計算の特例措置の存続
- 消費税インボイス制度における免税事業者等からの仕入に係る経過措置の延長
- 訪日外国人患者の診療に係る社会医療法人等の非課税要件の見直し
上記1.では、特別償却(30%)又は税額控除(7%)、登録免許税・不動産取得税の軽減措置を求めています。また7.では、経過措置のうち、仕入税額相当額の7割を控除できる期間を大幅に延長することを求めています。
2026年度税制改正により、訪日外国人患者への自費診療の請求価格に関する要件が緩和されました。今回、訪日外国人患者への自由診療の増加によって税制上不利益が生じないよう、訪日外国人患者に対する救急医療等による収入を、社会保険診療等の収入割合に関する要件の判定から除外することを、上記8.の要望で求めています。
大きな項目は前年度と同じ6項目ですが、今回は、医業承継、働き方改革・医師偏在対策、医療提供体制の強靭化について、内容が大きく更新されました。特に、医療法人の出資について「評価方法の改善」から納税猶予制度の創設へ踏み込んだことや、認定医療法人制度の要望が大幅に具体化したこと、医師不足地域への支援内容が2026年度改正を踏まえて組み替えられたことは、今回の注目点と言えます。
今後、年末に発表される税制改正大綱に向け、税制改正の議論が進められます。
同団体による要望の詳細は、日本医師会のサイトでご確認ください。
[参考]
日本医師会「令和9年度 医療に関する税制要望」
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